「片付けない」「室内を走る」「話を聞かない」。こうした子どもの姿を前にすると、まず行動を止めるための言葉をかけたくなることがあります。
また、同じ場面でも、すぐに注意する、少し見守る、気持ちを聞こうとするなど、保育者によって対応が異なることもあるでしょう。
子どもの姿を園全体で考えるとき、対応方法だけを揃えようとする前に共有したいのが、目に見える行動の奥で、何が起きているのかを想像する視点です。
今回は、大分県大分市こども園研修の講演で取り上げた「見(けん)の目」と「観(かん)の目」という考え方をもとに、子どもの「困った行動」をどう捉えるかを考えます。
「困った行動」だけでなく、その奥に目を向ける
子どもの姿を見るとき、大切にしたいのが「見の目」と「観の目」という二つの視点です。
「見(けん)の目」は、目の前で起きていることを見る視点です。
- 泣いている
- 走っている
- 片付けていない
- 話を聞いていない
保育の現場では、まずこうした行動が目に入ります。安全を守るため、その場で止めなければならないこともあります。
一方の「観(かん)の目」は、見えている行動の奥にある気持ちや理由を考える視点です。
「どうして泣いているのだろう」
「走りたくなった背景には、何があったのだろう」
「片付けたくないのではなく、まだ遊びを続けたいのだろうか」
目の前の行動を確認したうえで、もう一つ「どうしてだろう」と考えてみる。これが、子どもの姿を理解する入口になります。
困った行動をする子ども自身が、困っているかもしれない
子どもの行動が集団の流れに合わないとき、大人にとっては「困った行動」に見えることがあります。
しかし、その行動の奥には、子ども自身の困りごとが隠れているかもしれません。
行動だけを見れば、「言うことを聞かない」と捉えられる場面でも、子どもの側には、うまく言葉にできない思いや理由がある可能性があります。
もちろん、危険があるときや、誰かを傷つけるおそれがあるときには、止める必要があります。本当に止める必要がある場合は、短く明確に伝えることも大切です。そのうえで、子どもの思いや理由を受け止めていきます。
「受け止めること」と「すべてを希望どおりにすること」は同じではありません。
必要なルールや約束を伝えながらも、「そうしたかったんだね」と子どもの気持ちを受け止める。その両方を大切にすることが、子どもの主体性を尊重する関わりにつながります。
「できていないこと」から「今ある力」へ視点を移す
子どもの姿を見るときは、できていないことや不足していることに目が向きやすいものです。
しかし、子どもの「ないもの」ではなく「今あるもの」に目を向け、その子がより良くなろうとする力を信じることも大切です。
たとえば、子どもがご飯を食べない場面で、「なぜ食べないの」と子どもだけに理由を求めるのではなく、「何が好きだったかな」「どのような工夫ができるかな」と、保育者自身の関わり方にも目を向けてみるという例があります。
これは、子どもの行動を見過ごすことではありません。子どもだけを変えようとするのではなく、保育者の関わりや周囲の環境にも目を向けるということです。
すぐに正解を決めるのではなく、その子の姿を見ながら、できる工夫を考えていく。そうした姿勢も「観(かん)の目」の一つといえるでしょう。
職員間で揃えたいのは、言葉かけより先にある「見方」
同じ子どもの姿を見ても、保育者によって受け止め方が違うことはあります。
だからこそ、園全体で考えるときは、「この場面では、この言葉を使う」と対応だけを決めるのではなく、その前にある子どもの見方を言葉にしてみることが必要です。
「見(けん)の目」と「観(かん)の目」を意識しながら子どもの姿を職員間で振り返るときは、たとえば次のような問いを持ってみると、子どもの行動の奥にある思いや背景を考えやすくなります。
- その場で、実際に何が起きていたか
- 子どもは何をしようとしていたのか
- 行動の奥に、どのような気持ちや理由が考えられるか
- 子どもがすでに見せている力は何か
- 保育者の関わりや環境に、工夫できることはあるか
- 安全のために、明確に伝える必要があることは何か
ここで大切なのは、誰かの対応を責めたり、すぐに一つの正解を出したりすることではありません。
目に見えた事実と、そこから考えたことを分けながら、子どもの姿をどう捉えたのかを共有する。その対話を通して、自分とは異なる見方に気づくこともあります。
保育観の共有は、日々の子どもの姿から始められる
「子どもの主体性を大切にする」「一人ひとりを尊重する」といった考え方は、言葉として掲げるだけでは、日々の判断に結びつけにくいことがあります。
泣いている子、片付けない子、別のことを始めた子を前にしたとき、園としてその姿をどう見るのか。具体的な場面をもとに考えることで、園が大切にしている保育を言葉にしやすくなります。
子どもの姿から始め、保育者の関わりを振り返り、周囲の環境や園全体の考え方へ視点を広げていく。それは、保育と園づくりを切り離さずに考えることでもあります。
園長や主任が正解を示し、現場の保育者に守ってもらうという一方向の形ではなく、それぞれが見た子どもの姿を持ち寄ることが出発点になります。
まとめ|行動の奥を想像する視点を、園全体で育てる
子どもの「困った行動」に向き合うとき、まず必要なのは、行動を止める方法を増やすことだけではありません。
目の前の姿を「見(けん)の目」で捉え、その奥にある思いや理由を「観(かん)の目」で想像する。そして、子どもに向いていた矢印を自分にも戻し、関わりや環境にできる工夫を考えることです。
この見方を職員同士で共有することは、子どもへの対応を表面的に揃えるのではなく、園が大切にしたい保育を考えるきっかけになります。
エシカル・エデュケーションでは、それぞれの園の課題やご希望を伺いながら、園内研修・講演を行っています。子どもの姿の捉え方や日々の関わりなど、保育実践に関する研修について詳しく知りたい方は、保育実践のページをご覧ください。
