「職員からなかなか意見が出ない」「自分で考えて動いてほしいけれど、指示を待つ姿が多い」と感じることはないでしょうか。
保育者の主体性を支えることは、すべてを自由に任せることではありません。一人ひとりの声を受け取る場をつくり、園の理念という共通の方向を確かめたうえで、役割と責任を持って行動できる機会をつくることが必要です。
2026年8月8日に慈光保育園で行った実践体感セミナーでは、同園が保育を変えてきた歩みとともに、これから目指す園の姿についても考えました。
慈光保育園が現在意識しているのが、「職員の主体性」です。今回は、同園の具体的な実践から、園長・主任が保育者一人ひとりの考えと行動をどのように支えられるかを考えます。
職員の主体性は「それぞれが好きに動くこと」ではない
一人ひとりの保育者には、大切にしたいことや、やってみたい保育があります。一方で、それぞれが自分の考えだけで別々の方向へ進めば、園として大切にする保育が見えにくくなることがあります。
園には理念や目標があり、目指す方向があります。その方向を共有したうえで、「自分の得意なことをどこで生かせるか」「自分の立場から何ができるか」を考えることが、職員の主体性です。
園長・主任がすべての答えを先に示すのではなく、職員の考えを聞きながら、理念とのつながりを一緒に確かめます。
- この取り組みは、園が大切にしていることとどうつながるか
- 子どものどのような姿を大切にしたいのか
- 自分の得意なことや経験を、どこで生かせそうか
理念は職員の考えを抑えるためのものではなく、一人ひとりの思いを園の保育へつなぐ共通の方向になります。
職員の声を受け取る方法を一つにしない
職員の考えを知る方法は、全体での話し合いだけではありません。
慈光保育園では、園舎や園庭、理念を考えるときに職員と話し合ってきました。さらに、年間を通して面談を行い、アンケートも活用しています。
対面では、「こんなことを言ったら、どう思われるだろう」とためらうこともあります。全員がいる場では言いにくくても、面談やアンケートであれば届けられる思いもあります。
そのため慈光保育園では、一つの方法だけで判断せず、できるだけ一人ひとりの声を受け取ろうとしてきました。
園長・主任が職員の声を聞くときは、次のように複数の場を見渡すことができます。
- 園全体で方向を考える話し合い
- 一人ひとりと言葉を交わす面談
- 対面では伝えにくい思いも受け取るアンケート
話し合いで発言が少ないことだけを見て、その人に考えがないと決めるのではなく、どのような場なら思いを届けやすいかを考えることが、声を生かす入口になります。
声を聞くだけでなく、役割と責任を持つ機会をつくる
職員の主体性を支えるには、意見を聞くだけでなく、自分の役割を持って実際に動く機会も必要です。
8月8日のセミナーでは、慈光保育園の職員が発表や当日の準備を担いました。通常の保育と並行して準備を進めるため、負担の少ない取り組みではありませんでした。
それでも川島和恵園長は、役割を担い、責任を持ち、職員全員で一つのことに取り組む経験を「全部が学び」と捉えています。
任せることは、仕事を渡して終わりにすることではありません。その人がどのような役割を担っているのかを明確にし、立場に応じた責任を持って取り組んでもらうことです。
保育者、主任、園長では、立場によって見えることや判断することが異なります。自分の役割から考え、必要な行動を選ぶ経験が、指示を受けるだけでは得にくい学びになります。
一人の小さな実践を受け止める
主体性は、大きな役割を任せたときだけに表れるものではありません。日々の保育で、学んだことを自分で試してみる姿にも表れます。
慈光保育園が保育を見直し始めた頃、講師から学んだ子どもへの関わりを、丁寧に実践した保育者がいました。部屋から出てしまう子どもに対し、背中をさすりながら言葉を届ける関わりを続けていました。
最初から上手にできることだけを求めず、学んだことを一つ試してみる。その実践を園長や主任が見つけ、受け取ることも、職員が次の行動を考える支えになります。
考えて動ける余裕を、園全体で見直す
保育者が自分で考えて動くためには、立ち止まって子どもの姿を見る余裕も必要です。
忙しさの中で余裕を持てないことを、本人の努力だけに任せるのではなく、「どうしたら余裕が生まれるか」を職員同士で考えることが求められます。
8月8日の講演では、半年や一年に一度でも、仕事や時間の使い方を職員同士で話し合うことが呼びかけられました。
すべてをゆっくり進めるのではなく、効率化できる作業は工夫しながら、子どもの前では言葉や動きをゆっくり届ける。何を効率化し、どの時間を丁寧に保ちたいのかを園で考えます。
職員の主体性を求めるだけでなく、考えたことを実践できる状況があるかを見直すことも、園長・主任にできる支援の一つです。
園長・主任は、任せながら方向を確かめる
役割を任せることと、園の方向を示すことは、どちらか一方ではありません。
職員の思いを聞き、その人の得意なことや「やりたい」を受け止める。一方で、園長・主任には、それぞれの立場から伝えなければならないこともあります。
慈光保育園では、立場によって考え方や責任が変わることを職員に伝えています。園長として必要なことを伝える際にも、相手への愛情と信頼を土台にすることを大切にしています。
職員の提案や実践を、園の理念や「子どもにとってどうか」という視点に照らして一緒に考える。必要なときには方向を示しながら、その人自身が考える部分を残すことが、任せることと園の責任を両立させる考え方になります。
職員が自分で考え、役割を持って動ける園へ
保育者の主体性を支えるために、園長・主任ができることは、職員へ「もっと主体的に動いてほしい」と求めることだけではありません。
慈光保育園の実践から見えてくるのは、次のような関わりです。
- 話し合い、面談、アンケートを通して、一人ひとりの声を受け取る
- 職員の得意なことや「やりたい」を、園の理念の中で生かす
- 役割と責任を持って実際に動ける機会をつくる
- 日々の小さな実践を見つけ、受け止める
- 考えて行動するための余裕を、個人任せにせず園全体で考える
- 任せながら、園として大切にする方向を確かめる
慈光保育園も、職員の主体性について完成形に到達したと考えているわけではありません。子どもの姿と職員の姿を見ながら、今年度の目標として取り組みを続けています。
まずは、一人ひとりの声をどのように受け取っているか、任せられる役割はあるか、その人の「やりたい」が園の理念とどこでつながるかを見直してみることから始められます。
保育者が園の方向を理解したうえで、自分の役割を考え、行動する。その過程を支えることが、職員の主体性を生かす園運営につながります。
エシカル・エデュケーションでは、それぞれの園の課題やご希望を伺いながら、園内研修・講演を行っています。職員の主体性やチームづくりなど、園の組織づくりに関する研修について詳しく知りたい方は、組織づくりのページをご覧ください。
